StellaF20はファイバーレーザーを使用した高速彫刻専用機です。
多くの金属と一部の樹脂に利用可能で、金属製品のロゴ入れやシリアル番号、デザインワンポイント等幅広く使用されます。
大きく分けて白と黒色のマーキングが可能ですが、今回は両方の仕上がりの手法ををミックスさせた作例をご紹介します
加工内容
使用素材:SUS304 ステンレスドッグタグ
加工時間:約2分30秒(黒2分・白30秒 複合マーキング)
使用デザインソフトウエア InkScape
パラメータ
黒彫刻パワー90 彫刻速度 250 密度 3
白彫刻パワー60 彫刻速度 450 密度 8
加工データの準備
加工データの準備をします。ちょっとイケメン(?)なラブラドールの絵にしてみました。
モノクロデータですが、このデータを意図的に3つに分けました。
背景・・・レーザーマーキングしません(記事のために分かりやすく赤色にしました)
主線・・・黒い色が出るパラメータでレーザーマーキングします
下地・・・白い色が出るパラメータでレーザーマーキングします
今回はinkscapeからデータ転送します。
InkScapeについて
デザインを作るソフトはアドビのイラストレータやCorelDRAWが王道ですが、サブスクや買い切りでも年々価格が上昇したりライセンスの問題で複数のPCにインストールして運用しにくい等、レーザー加工機を広めていく上で少しずつではありますがデザインソフトが経済的・ランニングコスト的な足枷になっていました。
フリーソフトのInkScapeは色々な問題があり積極的に使っていませんでしたが、最近の進化は素晴らしくバージョン1.3から魅力的な機能が実装されていて実用的な領域に入ったと思っています。
InkScapeの進化を受け、今後のメインデザインソフト候補の一つと考えInkScapeから直接データを転送できるプラグインを開発しました。
同時に配布されるPodeaAppの中にPodeaレーザー加工機に合わせた設定をしたInkScapeをバンドルしています。
今後は少しずつですがInkScapeを推していく見込みです。
下準備
ガルバノマーキングは基本的にマーキングしたいところに位置を合わせて、フォーカスを合わせて加工するだけですので下準備は非常に楽です。
敢えてやることがあるとすれば、仕上がりを決めてパラメータを決めるぐらいですが最初の1回で済みますし、たくさん作る場合は位置合わせジグさえ作ってしまえば次々と加工ができます。
加工時間も短いため慣れてしまえば本当に取り扱いは楽な加工機です。
Stellaシリーズは安全性を最優先にしつつ、前と左右方向に開放した状態で加工できるようにもなっています。
今回のドックタグは小さく通常であれば扉を閉めて加工しますが、今回は撮影のために周りを開放して加工をしました。
加工品のサイズが大きい時や特別な理由がある場合は、セーフティロック解除キーを取り付けることで解放状態での加工も対応できるように設計されています。
安全性を最大限確保して運用するためにはファイバーレーザー用の保護メガネの購入をご購入下さい。
(ご注意:レーザーの種類によって保護メガネの色や透過性が変わります。写真はイメージですデザインは変わることがあります)
実加工
ガルバノマーキングは高速で数秒以内の加工が多いのですが、今回は加工パラメータを贅沢な設定にして2分半程の加工を実施してみました。
白と黒の差が出る理由
白く仕上がる部分と、黒く仕上がる部分の原理について簡単にご説明します。
白い仕上がり:
ステンレス鋼に適切なパワーと密度でレーザーを照射すると表面が粗さを持ち、光が散乱するようになります。この散乱の変化が視覚的には白っぽく見える原因となります。
弱めのパワーで密度を荒めにサラサラ表面を撫でるようなイメージで加工すると白っぽく仕上がります。
.
黒い仕上がり:
ステンレス鋼で黒い仕上がりを得るためには表面酸化をさせる必要があります。レーザーを強く照射し高熱を発生させることでステンレス鋼の表面に酸化層を形成します。
酸化層は光を吸収し、黒く見えるようになります。
仕上がり比較
黒だけ・白だけ・ミックスした状態と仕上げてみました。黒は視認性はいいのですが少し劇画調に仕上がっています。白は写真は見た目は良いのですが見る角度によっては視認性がかなり厳しくなります。
ミックスしたデザインは中間諧調の様な表現も出来ており、どの角度から見ても綺麗に見えます。
ほんの少しの工夫で非常に良い加工結果を得ることが出来ました。
金属にマーキング出来るレーザーの寿命は・・・?
動画を見ると火花を散らしながら加工しているのが分かります。かなり強いレーザーの光による加工ですが、ファイバーレーザーは予想以上に長寿命で2万時間程と非常に長い寿命を持ちます。これは光源にLD(レーザーダイオード)を使用しているためです。
Podea社内ではこの記事を書く6年ぐらい前から社内用の機材としてファイバーレーザーを使用していましたが今でも問題無く使えています。
iPhoneの背面のマーキングにも利用されており、大量生産・長時間稼働に対応するレーザー光源を使用しているため性能も寿命も折り紙つきです。
精度は・・・?
精度は・・・人間の目では判定できないぐらい精細です。数字にすると彫刻する点と点の間の距離は3.5μ(1㎜の約1/300ぐらい)前後のピッチで点を打つことができます。
ロゴの下にある Power Of IdeasのSの文字は 0.3㎜x0.5㎜ぐらいしかありませんがしっかり視認出来る仕上がりです。
ファイバーレーザーマーカー器機の現実(過去と今)
6年前Podea社内でファイバーレーザーマーカーを導入した時は機械そのものが非常に高額で、制御ソフトも中国製のソフトを使うしかなく(しかも32bitOSしか使えない)、基本的に大量生産ラインやシリアル番号・製造年月日の様な工業的な使い方が主で、とにかくスピードが求められる工業的な使用方法がほとんどでした。
販売するにあたっては価格も高く制約もあり提供しずらい状況のため見送っていた経緯があります。
今現在は完全自社設計のコントロールソフトウエア(PodeaApp)から全ての制御が出来るようにハードもソフトも開発できるようになり、現実的な価格でご提供できるようになりました。
機器価格が高額(200~500万等)だと常に1秒以下の加工を求められ工業的な使い方ばかりになりますが、現実的な価格になれば今回のように1個の作品に長時間ファイバーレーザーを駆使して仕上げていくというアプローチがやりやすくなります。
成熟したファイバーレーザーマーカーの未来
今回の様な一回の加工で2分半近い時間をかけて加工するようなリッチな使い方は知る限りは少なく、より一般的になって多くの分野で使用されるようになれば、工業だけではなく人生のメモリアルな事に使われるようになっていくと思います。
Podeaは現実的だと判断するまでは商品は作れても製品として出さないのですが、今はファイバーレーザーマーカーは非常に成熟した良い状態と言えます。
今回は黒と白をミックスしたらどんな感じに仕上がるだろうか?という妄想からスタートしましたが妄想通りの良い結果が得られました。
Podeaの中の人はデザイナーではありませんが、ほんの少しの工夫と妄想で一味違う印象を作れるのがレーザー加工の良く、面白いところだと思っています。
より手軽になって普及する事で新たな使い方や表現の幅が広がり、ビジネス的な裾野も広がっていく事でしょう。
デザインを・工夫を凝らし、機械の限界性能まで引き出すようなお客様の作品を楽しみにしつつ、是非成熟したレーザーマーカーを使用してビジネスの幅を大きく広げていきましょう。